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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)182号 判決 1985年4月24日

控訴人

蓑一祐

右訴訟代理人

岩田豊

吉村俊信

被控訴人

富士産業株式会社

右代表者

萬里崎義一

右訴訟代理人

森長英三郎

井田邦弘

中野允

井田恵子

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、金八八〇万円及びこれに対する昭和四八年九月一九日から支払済みに至るまで月一分の割合による金員を支払え。

訴訟の総費用は被控訴人の負担とする。

この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、金八八〇万円及びこれに対する昭和四八年九月一九日から支払済みに至るまで、主位的に月一分(当審において拡張)、予備的に年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却の判決(当審における新請求については請求棄却)の判決

第二  当事者双方の主張

一  請求原因

1  訴外飯田初穂(以下、「飯田」という。)は、昭和三七年九月一三日、その所有の東京都杉並区天沼一丁目二四七番地所在鉄筋コンクリート造四階建共同住宅、床面積延七八七・〇四平方メートル(以下「本件建物」という。)を、訴外菱造船不動産株式会社(その後関東菱重興産株式会社と商号を変更した。以下「訴外会社」という。)に対し、期間同年一一月一六日から二年、賃料一か月五二万八〇〇〇円、入居者は三菱造船株式会社(後に三菱重工業株式会社となつた。)社員とし、保証金八八〇万円の約で賃貸したが、右同日飯田は被控訴人に対し、期間を五年と定めて、本件建物の管理を無償で委任するとともに、訴外会社から受け取つた保証金八八〇万円を寄託し、被控訴人は寄託を受けた保証金に対し月一分の利息を毎月末日限り飯田に支払うことを約した(以下「本件管理契約」という。)。

2  主位的請求原因

(一) 飯田は、被控訴人に対し、昭和四八年九月一日到達の内容証明郵便をもつて、本件管理契約を解除する意思表示をした。

(二) 仮に右解除が認められないとしても、飯田は、被控訴人に対し、昭和四八年九月一七日到達の内容証明郵便をもつて、本件管理契約を解除する旨の意思表示をした。

(三) なお、被控訴人は、昭和四八年六月ころ飯田の意思に反して訴外会社に対し、本件建物の賃料を従前の二倍以上に当たる一か月一二五万円に増額するよう請求し、その後、再三にわたり訴外会社に対しその実行を強要し、また、本件建物の管理は無償の約であつたのに、そのころ、飯田に対し、これを有償に改めて一か月一五万円を管理料として支払うことを要求し、さらに、訴外会社から支払を受けた同年七月分及び八月分の賃料を飯田に引き渡さなかつた。これらは、いずれも本件管理契約上の義務に違反する。

(四) また、飯田は本件管理契約の解除権を放棄したことはない。

(五) 飯田は昭和四八年九月一七日控訴人に対し、(一)、(二)項の解除により生じた被控訴人に対する保証金八八〇万円の返還請求権を譲渡し、同年同月一八日被控訴人に到達した書面により、被控訴人にその旨の通知をした。

(六) よつて、控訴人は被控訴人に対し、金八八〇万円及びこれに対する債権譲渡通知の到達した日の翌日である昭和四八年九月一九日から支払済みに至るまで約定利率による月一分の割合による遅延損害金、これが認容されない場合には、右八八〇万円及びこれに対する昭和四八年九月一九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  予備的請求原因

(一) 本件管理契約には、期間満了の二か月前に当事者の一方が契約の終了を予告しないときは更に五年契約を継続し、その後の期間満了に際しても同じとする旨の約定があつた。そして、本件管理契約は昭和四二年と同四七年に更新されたが、飯田は被控訴人に対し、昭和五一年一一月三〇日到達した書面により、右契約は期間満了の日の昭和五二年九月一二日限り終了することを予告した。

(二) 飯田は昭和四八年九月一七日控訴人に対し、本件管理契約の終了により生ずる本件保証金八八〇万円の返還請求権を譲渡し、同年同月一八日被控訴人に到達した書面により、被控訴人にその旨の通知をした。

(三) 控訴人は飯田から前記保証金返還請求権の譲渡を受けるとともに、右保証金に対する利息債権も譲り受けた。

(四) よつて、控訴人は被控訴人に対し、保証金八八〇万円とこれに対する利息債権譲渡の日の後である昭和四八年九月一九日から昭和五二年九月一二日まで約定利率月一分の割合による利息金及び同月一三日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求め、これが認容されない場合には、保証金八八〇万円とこれに対する管理契約終了後である昭和五二年九月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)(二)の事実は認めるが、その効力は争う。

(二)  請求原因2(三)のうち、被控訴人が控訴人主張のころ訴外会社に対し、その主張のように賃料増額の請求をしたこと、被控訴人がそのころ飯田に対し本件管理契約を有償にするよう申し入れたこと及び被控訴人が控訴人主張の各賃料を飯田に引き渡していないことはいずれも認めるが、その余の事実は争う。

右の賃料増額の請求は、被控訴人が飯田の求めにより、その利益のためにしたものであるが、被控訴人のした要求額(一か月一二五万円)は、当時の物価、公租公課、比隣の賃料に照せば決して不当なものではなく、しかも、右は被控訴人の要求として示された額にすぎず、右増額の請求は、交渉の結果いずれは双方が相当とする額で妥結すべきものであつた。

被控訴人は昭和四八年六月ころ飯田に対し管理料として賃料の一割五分に相当する金員を支払うよう申し入れたところ、飯田はこれを承諾した。さらに昭和四八年七月分及び八月分の賃料は、前記増額請求についての交渉中に訴外会社が一方的に支払つてきたので、被控訴人は飯田の了解の下にこれを保管することにしたものである。

(三)  請求原因2(四)は争う。

被控訴人は飯田の依頼により同人と訴外会社との間の本件建物の賃貸借契約をあつせんしたものであるが、訴外会社は右賃貸借契約の締結に当たり、保証金がかなり高額であつたところから、これを飯田に預けたのでは不安があると考え、被控訴人が本件建物を管理し、保証金は被控訴人において保管するよう要請した。一方、飯田は訴外会社のような信用のあるところに本件建物を賃貸したいと考えていたので、訴外会社の右要求を了承し、保証金の受領及び本件建物の管理一切を被控訴人に委任した。

したがつて、本件管理契約は飯田と訴外会社との間の本件建物賃貸借契約及び被控訴人が月一分の利息を支払うことによつて保証金八八〇万円を自由に使用することができるという被控訴人の利益のための契約と一体をなしているものであり、飯田においてこれを一方的に解除することはできない。

(四)  請求原因2(五)のうち、控訴人主張の日にその主張の債権譲渡の通知が到達したことは認めるが、その余は争う。

(五)  請求原因2(六)は争う。

3(一)  請求原因3(一)のうち、本件管理契約に控訴人主張の約定の存在すること、控訴人主張の日にその主張の契約終了の予告すなわち更新拒絶の意思表示がなされたことは認める。

しかし、右更新拒絶の意思表示は、飯田の一方的な不法行為ともいうべきものであるから、被控訴人の更新請求権が優先するものと解すべきであり、被控訴人は更新請求をしたから、右管理契約はなお存続している。

(二)  請求原因3(二)のうち、控訴人主張の日に、その主張の債権譲渡の通知が到達した事実は認めるが、その余は争う。

(三)  請求原因3(三)の事実は否認する。

三  抗弁

1  解除の撤回

飯田は、昭和四八年九月七日、控訴人主張の本件管理契約の解除を撤回した。

2  保証金返還請求権の譲渡の無効

(一) 本件保証金は、本来飯田が預かるべきものであつたが、前記二2(三)のとおり、訴外会社の要求により、賃貸借契約の事実上の条件として被控訴人が預かつたものであるから、右保証金は被控訴人から直接訴外会社に返還すべきものである。したがつて、飯田は被控訴人に対して右保証金の返還請求権を有していない。

(二) 仮に、被控訴人が飯田に対して保証金返還義務を負うとしても、控訴人が飯田に対して本件保証金返還請求権を譲渡した昭和四八年九月一七日においては、本件管理契約が存続していたので、飯田の保証金返還請求権は現実化していなかつた。

(三) 本件保証金の返還請求権は、その性質上、本件建物の賃貸人の地位の譲渡を伴うことなくしては他に譲渡することができないと解すべきである。

以上により、本件保証金返還請求権の譲渡は無効である。

3  利息契約の失効

(一) 仮に利息債権の譲渡があつたとしても、被控訴人はこれより先の昭和四八年六月飯田との間で、同月より保証金に対する利息を支払わないことを合意している。

(二) 仮に右合意が認められないとしても、保証金に対する利息支払の約定は被控訴人が本件建物を管理することを前提とするものであるところ、飯田の妨害により、被控訴人が本件建物を管理することが不能となつたので、右約定は失効した。

4  信託法一一条違反について

飯田から控訴人に対する本件保証金返還請求権の譲渡は、控訴人をして訴訟行為をなさしめることを主たる目的としたものであるから、信託法一一条に違反し無効である。

5  相殺

仮に前記各主張が認められないとしても、被控訴人は次のとおり相殺を主張する。

被控訴人は、昭和四八年六月訴外飯田との間に、本件管理契約につき管理手数料を有償とすること等の改訂を合意した。右改訂された管理手数料は一か月につき賃料の一割五分と、賃料を増額したときは増額した月の増額分と定められ、賃料は昭和四八年六月分は五二万八〇〇〇円でその一割五分は七万九二〇〇円、同年七月分からは一か月七二万円に増額されたので、昭和四八年六月一日から同五二年九月一二日までの管理手数料は、その間の賃料の一割五分と昭和四八年七月の増額分との合計五七一万四四〇〇円である。そこで被控訴人は飯田に対する昭和五二年七月二六日付け同二七日到達の書面より、右管理手数料のうち金四〇一万〇四〇〇円をもつて本件保証金返還請求権及び利息債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1について

契約解除の意思表示はそれが相手方に到達したときに直ちにその効力を生じる性質を有するものであるから、その意思表示が相手方に到達した後においては撤回の問題は生じない。被控訴人の解除撤回の主張は、飯田のなした解除の意思表示が被控訴人に到達した後の事実を基礎とするものであるから、それ自体失当である。

2  抗弁2について

争う。

3  抗弁3について

否認する。

4  抗弁4について

争う。

5  抗弁5について

争う。

五  抗弁1に対する再抗弁

被控訴人の代表者萬里崎義一は、昭和四八年九月七日午後七時ころ、飯田宅に出向き、同人に対し、翌八日午前九時半ころまで、執拗に本件管理契約の解除を撤回するよう要求し、用意してきた文案を示して飯田にわび状(解除の撤回)を書かせた。このような異様な交渉態度と雰囲気に飯田の妻はすつかり脅えて半ば泣き出さんばかりであつた。

そこで飯田は、被控訴人に対する昭和四八年九月一四日付け内容証明郵便によつて、右わび状は被控訴人代表者の強迫によるものであるとの理由で取消しの意思表示をし、同郵便は同月一七日被控訴人に到達した。

六  再抗弁に対する答弁

控訴人主張の意思表示があつたことは認めるが、その効力は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一主位的請求原因について

1  請求原因1、同2一、二の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実並びに<証拠>によると、飯田は、昭和三七年九月一三日、その所有の本件建物を、一括して訴外会社に賃貸し、同日、建築及び不動産の管理を業とする被控訴人との間で、本件建物の管理契約を締結したこと、本件管理契約において、被控訴人は、賃借人からの賃料の徴収、本件建物の公租公課の支払、修理等本件建物の賃貸に関する事務の一切を任されたほか、賃借人が飯田に差し入れた保証金八八〇万円の保管を委ねられたこと、そして、被控訴人は、右の管理を無償で行うほか、保証金を保管する間、月一分の利息を飯田に支払う旨約したが、その代わりに飯田は、被控訴人が右の保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することを許したこと、本件建物の賃貸借契約の期間は二年であるが、このような短かい期間が定められたのはその間の物価の変動を考慮したものにすぎず、本件管理契約の期間は五年と定められ、更新も認められたこと、その後両契約とも順次更新され、被控訴人は、昭和四八年八月までの約一一年間、右の保証金を自己の事業資金として利用していたところ、飯田は、同年九月一日被控訴人に対し本件管理契約解除の意思表示をし、右の保証金の返還を請求したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件管理契約は、委任者たる飯田に利益を与えるのみならず、受任者たる被控訴人にも、本件建物の貸賃借契約及び本件管理契約が存続する限り、右の保証金を自己の事業資金として常時自由に利用することができる利益を与えるものであるということができる。

2  ところで、本件管理契約は、委任契約の範ちゆうに属するものと解すべきところ、本件管理契約のように単に委任者の利益のみならず受任者の利益のためにも委任がなされた場合であつても、委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに徴すれば、受任者が著しく不誠実な行動に出る等やむをえない事があるときは、委任者において委任契約を解除することができるものと解すべきことはもちろんであるが、さらに、このようなやむを得ない事由がない場合であつても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、右委任契約が受任者の利益のためにもなされていることを理由として、委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任者の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから、委任者は、民法六五一条により委任契約を解除することができ、ただ、受任者がこれによつて不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによつて、その不利益を填補されれば足りるものと解するのが相当である。

3  そこで、飯田が解除権を放棄したか否かについて検討するに、被控訴人主張のような事情(ただし、訴外会社が本件保証金を被控訴人において保管するように要求したとの事実を認めるに足りる証拠はない。)が存在するとしても、本件管理契約が飯田と訴外会社との間の本件建物賃貸借契約と一体となつていると認めることはできず、本件全証拠によるも、飯田が本件管理契約の解除権を放棄したものと認めることができない。

4  請求原因2五のうち、控訴人主張の日にその主張に係る債権譲渡の通知が被控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。右当事者間に争いがない事実に<証拠>によると、飯田は被控訴人に対する本件保証金返還請求権を控訴人に譲渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二抗弁について

1  まず、抗弁1について検討するに、<証拠>によれば、被控訴人代表者萬里崎義一は、昭和四八年九月七日午後七時ころ、飯田宅に赴き、飯田が同年同月一日本件管理契約を解除したこと(請求原因2(一))を難詰し、右萬里崎においてあらかじめ用意したわび状の文案を示して、同文案どおりのわび状を書くように要求したこと、飯田は当初右わび状を書くことを拒否していたが、右萬里崎が執ように右要求を繰り返したため、疲労困ぱいし、翌八日午前八時半ころ、わび状(乙第三号証)を書くに至つたこと、右わび状には、飯田が本件管理契約を解除したことを陳謝するとともに、右解除の申し入れを全面的に撤回する旨が記載されていることが認められ<る>。

右事実によれば、飯田は、昭和四八年九月八日、被控訴人代表者の要求により、請求原因2(一)の解除を撤回したものというべきである。

ところで、控訴人は右解除の撤回を取り消したと主張するが、さらに控訴人は、右解除撤回の取消しのなされた日と同日である昭和四八年九月一七日被控訴人に対し、改めて本件管理契約を解除する旨の意思表示をしたこと(請求原因2(二))を主張し、この事実は当事者間に争いがないところであるので、第一回目の解除の撤回の取消し(抗弁1に対する再抗弁)について判断するまでもなく、本件管理契約は右二回目の解除により終了したものということができる。

2 つぎに、抗弁2(債権譲渡の無効)について検討するに、前記一の認定事実によれば、飯田は本件建物を訴外会社に賃貸し、同会社から差し入れられた保証金八八〇万円を被控訴人に寄託(消費寄託)したものであり、飯田が被控訴人に対し、右寄託金の返還請求権を有することは明らかである。また、被控訴人は訴外会社に対して右保証金の返還債務を負つているのは被控訴人である旨主張しているが、前記認定事実によれば、訴外会社に対して右保証金の返還債務を負つているのは賃貸人たる飯田であつて、被控訴人が訴外会社に対して直接保証金を返還すべきいわれはないから、被控訴人の右主張を認めることはできない。

また、被控訴人は、本件保証金返還請求権は、その性質上、本件建物の賃貸人の地位の譲渡を伴うことなくしては他に譲渡することができないと解すべきであると主張するが、右保証金返還請求権は賃貸人及び賃借人間の保証金授受に伴つて生じたものではなく、飯田及び被控訴人間の消費寄託による保証金の授受に伴うものであるから、右保証金返還請求権の譲渡と賃貸人の地位の譲渡とはなんら関係がないものというべきである。

そして、飯田の訴外会社に対する保証金の返還は、同額の金銭をもつてなせば足りるのであるから、被控訴人に対する保証金返還請求権を他に譲渡したとしても、訴外会社に対する保証金の返還が不能になるということはできず、飯田が右請求権を他に譲渡することは同人の自由であるというべきである。

また、被控訴人は、控訴人が飯田から保証金返還請求権の譲渡を受けた昭和四八年九月一七日には、飯田の右債権は現実化していなかつたと主張するが、前記二1において判示したように、本件管理契約は昭和四八年九月一七日に解除されたものであるから、飯田の被控訴人に対する保証金返還請求権が現実化していなかつたということはできない。

よつて抗弁2を採用することはできない。

3  被控訴人は、被控訴人と飯田との間の利息支払の約定は合意により解消したと主張するので(抗弁3)、この点について検討するに、<証拠>中には、右主張に沿う部分があるが、右証言部分は、<証拠>に照らすと、たやすく採用することができず、他に、被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。また、被控訴人は、飯田の妨害により本件建物を管理することが不能となつたので利息支払の約定は失効したと主張するが、右妨害の事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、抗弁3を採用することはできない。

4  信託法一一条違反について

被控訴人は、飯田から控訴人に対する本件債権譲渡は控訴人をして訴訟行為をなさしめることを主たる目的としたものであると主張するが(抗弁4)、本件全証拠によるも右事実を認めるには足りず、かえつて<証拠>によると、飯田は昭和四八年六月ころ控訴人から三〇〇万円を借用したうえ、その後更に三五〇万円の借り受けを予定し、その返済のために本件保証金の返還請求権を控訴人に譲渡した(ただし右三五〇万円の借り受けは結局実行されなかつた。)ことが認められ<る>。

よつて、抗弁4を採用することはできない。

5  相殺について

次に、被控訴人の相殺の抗弁(抗弁5)について検討するに、被控訴人は、飯田は昭和四八年六月被控訴人に対し本件管理契約の管理手数料として被控訴人主張の金額を支払う旨約したと主張し、<証拠>中には、右主張に沿う部分が存するが、右証言は、<証拠>に照らして措信することができず、他に本件全証拠によるも、被控訴人の右主張を認めることができない。

よつて、抗弁5は、その余の点について判断するまでもなく採用することができない。

三以上によれば、被控訴人に対し金八八〇万円及びこれに対する債権譲渡通知到達の翌日である昭和四八年九月一九日から支払済みに至るまで約定利率月一分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の主位的請求(当審における拡張請求部分を含む。)は理由があるというべきである。

よつて、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消して控訴人の主位的請求(当審における拡張請求を含む。)を認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九六条、八九条を、仮執行の宣言について、同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森 綱郎 裁判官高橋 正 裁判官小林克已)

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